アーキ・ヴォイスの
コーディネーターです。
一昨日あたりから冷え込んできました。
体調を崩されている方が多いようなので、
くれぐれもお身体ご自愛ください。
さて昨日、
外国人に新たな在留資格を設ける
入管法改正案の審議入りが決まりました。
これは今国会の山場とも言われていて、
与野党で激しく議論が交わされています。
安倍首相は「移民政策はとらない」と
明言し、与野党ともに移民政策反対と
なっています。なぜ移民という言葉が
ここまで取り上げられるのでしょうか。
今回はこの「移民」について取り上げてみました。
ご興味のない方はスルーしていただければ・・・
1.外国人労働者受け入れの背景
何度か取り上げていますが、
現在、日本で働く外国人労働者は
約128万人います。これは都道府県の
人口数ランキング31位の青森県、
岩手県(32位)の人口に匹敵する人数。
日本全体の人口から考えると約1.9%を
占めることになります。
この128万人の労働者のうち、
留学生など資格外活動の人数は23%の29.7万人、
技能実習生は20%の25.8万人。
考えてみると、留学生と技能実習生で
外国人労働者の半分を占めることになります。
一昨日、法務省は入管法改正案に関して、
今後の外国人労働者の受け入れ人数を
国会に提示しました。それによると、
2019年4月から5年間で、介護で6万人、
外食で5.3万人、建設で4万人の受け入れを
見込むとのこと。
日本の人手不足は半端なく、
5年後には145万人の人手が
不足するとのことで、今回、
入管法改正案が提出されるに
いたっています。
こうした背景の中、
当初から安倍首相は
「移民政策はとらない」と
言い続けてきました。
与野党ともに移民政策には反対。
しかし「移民」とは
どのような人のことを指すのでしょうか?
2.移民とは
私見ですが、日本はすでに
移民を受け入れてきているし、
今回の改正法案も移民拡大政策の
ひとつだと考えています。
ここで移民と言わないのは国民の間に
アレルギーがあるためで、タブー視した結果、
「移民」という言葉の定義を
一般で使われる用法と違うように
用いているだけではないでしょうか。
この点、芹澤健介『コンビニ外国人』
(2018年)を読んで腑に落ちました。
要するに、移民の問題は言葉の定義の
話なのかな、と。
先にお話したように、
すでに日本には128万人の
外国人労働者がいます。
これは世界4位の規模で
移民大国といっていいくらい。
しかしこの場合の「移民」は、
下記、国連の説明にある一般的な意味での移民。
ここでは1年以上外国で暮らす人を指します。
国連広報センター「難民と移民の定義」
(国連広報センターにジャンプします)
ではなぜ、安倍首相は
「移民政策はとらない」
と言っているのでしょうか?
首相の言う「移民」は、おそらく
国連的な意味のものではなく、
下記、2016年5月に自民党の報告書に
定義された移民のことを指していると考えます。
「『移民』とは、入国の時点でいわゆる永住権を
有する者であり、就労目的で在留資格による
受け入れは『移民』には当たらない」
(芹澤健介『コンビニ外国人』、新潮社、2018年。)
つまり、自民党の定義に従えば、
留学生や技能実習生は移民ではないので、
日本は「移民政策はとらない」国であると言えます。
結果、実態としては、移民大国。
政府見解では、移民受け入れはしていない。
こうしたダブルスタンダードが生まれます。
3.さまざまなダブルスタンダード
このように、
「移民」という言葉に
二つの意味がある。
さらに、今回話題になっている
技能実習制度についても
本音と建前があります。
建前上、技能実習制度は、
日本の優れた技術や制度を
途上国の人材に習得してもらい、
技術移転を図ることで
国際貢献をするために作られたもの。
ですから実習期間には年限があります。
しかし実態としては、
よく知られているように、
各方面の労働力不足を
外国人労働者が埋めるという
人材供給制度となっています。
思うに、
日本では移民について語ることが
タブー視され、外国から単純労働の
受け入れを禁じていたため、
結果として、技能実習という名目と実態とが
乖離した制度が存続してきたように思います。
結果として・・・
・2016年の厚生労働省の立ち入り調査で、
5173事業所のうち7割が労働基準法違反。
・制度の目的と実態が乖離しているため、
米国や国連などから「人身売買」や
「奴隷労働」と批判されている。
・最近話題になりましたが、ベトナム人
技能実習生が、福島第1原発事故の
除染作業に従事していた。
なぜストレートに「移民」、
「外国人受け入れ」を語ることが
できないのでしょうか?
4.移民の失敗例:スウェーデン
欧州の例などから、移民と聞くと、
犯罪率上昇とセットでイメージして
しまうところがあります。
ドイツも悪いイメージがありますが、
本当にひどい状況になっているのは、
かつては福祉国家として名をはせた
スウェーデン。
弊社は現地で通訳手配を
することもあり、ここ数年の
スウェーデンの治安の悪化には
注目していました。
特に今年2018年がひどく、
ネットを拾ってみていくと、
こんな感じになるようです。
・近年、スウェーデンの治安は移民の
増加により、劇的に悪化。
・スウェーデン首相は、移民街での
犯罪撲滅のため、軍隊を配備する
可能性に言及(2018年1月)
・スウェーデン警察官のFacebookへの
書き込みが話題に。あまりの犯罪の発生率に、
警察官の80%は身の危険を感じ、
転職を考えている(2018年2月)
・集団強姦が相次ぎ、ストックホルムでは
女性が一人で地下鉄に乗ることができない状態。
40年住み慣れた母国スウェーデンを離れて
ハンガリーに移住した女性が話題に(2018年3月)
・反移民を掲げる極右・スウェーデン民主党が
躍進、人気を博す(2018年9月)
ネットで「スウェーデン 移民問題」と
検索すると、ちょっと怖くなってきます。
これは明らかに移民の失敗例。
(ちなみに成功例はと言うと、
よく言われるのがシンガポール)
こういった事例を見聞きすると、
一般的に「移民はこわい」と
なってしまうのはよくわかります。
とはいえ、
移民という言葉を避けると、
二重の基準ができ、実態が
不透明になっていくので、
ここはひとつ、
真正面から移民政策として
議論をした方がいいのではと
思っています。
おそらく今後、
後戻りのできない
社会実験が始まります。
先に紹介した『コンビニ外国人』には、
マックス・フリッシュという
スイスの小説家の言葉が紹介されて
いましたので、最後にこの言葉を
ご紹介して終わりにしたいと思います。
「労働力を呼んだら、来たのは人間であった――」
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